これまでモータースポーツを担当する中で、外国人ドライバーの名前の表記に関して、いろんなエピソードに接してきました。それらをご紹介しつつ、この世界における表記の統一の難しさをご説明する材料とします。
■クルサード事件
1991年だったと記憶していますが、このレースでスコットランド期待の若手ドライバーがやってきました。その名は「David Coulthard」。そう、昨季限りでF1から引退したデビッド・クルサードです。
しかし、「シューマッハー」と「シューマッハ」ならまだしも、「クルサード」と「コールサード」では、あまりに違いすぎました。彼が表彰台の常連になり、勝つようになると、新聞でもテレビでも彼の名前が表記され、また連呼されるようになったのですが、やがて、とりわけ共同通信の記事を使っている地方紙を中心に、読者から問い合わせが相次いだそうです。
なお「デービッド」は共同通信における「David」(英語)の決まりの表記で、ベッカムなどもすべて「デービッド」となっています。さすがにこっちまでは変わりませんでした。
■「正しいのはバリケロなんだ!×2」事件
「バリチェロ選手、あなたの名前を母国の言葉、ポルトガル語で発音してください」
「Rrrrrrぅ~ベンス、バRrrrリケッッロ」
それまで「バリチェロ」と表記していた共同通信も時事通信も、その日から「バリケロ」表記に変わってしまいましたとさ。
さて翌年。同じようにホンダのモータースポーツ活動計画発表会。新しくチームの代表になったロス・ブラウンに報道陣の注目が集まる中、ここでも質疑応答の時間になると、件の人物がまたしても場違いに、前年とまったく同じことを言い出しました。
「バリチェロ選手、あなたの名前を母国の言葉、ポルトガル語で発音してください」
「Rrrrrrぅ~ベンス、バRrrrリケッッロ」
まるでデジャブのようでしたが、2回目ともなると、このおじさん、これだけで済ませません。
「僕はバリケロでもバリチェロでも、別にどっちで呼ばれてもかまわないよ」
息巻いているおじさんとは対照的に、大変オットナァ~な返答をしてくれました。
それにしても、このおじさんの行動、私にとっては大変迷惑でした。言っていることは正論ではあるし、それは認めますが、じゃあ、なぜそれが迷惑なのか。貴重な質疑応答の時間をそんなことに使わんでくれというのはもちろんですが、それだけではなく、まさに名前の表記という問題においてです。そしてそれが、共同表記の問題点として私が日ごろ感じていることの理由でもあります。
それについては今後敷衍しますが、次回は核心の「なぜ表記が分かれるのか」です。


by 只木信昭
喪中